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ギュスターヴ・モロー作 『L’Apparition(出現)』

1874年-1876年頃

 

一目見た瞬間、その絵画の意味さえ知らないのに心奪われる

そんな心の琴線に触れる絵画と出会うことがあります。

恐らくそれは人の人生においてそう多くない、限られた瞬間でしょう。

ときに大きく心揺さぶられ、またときに心が静寂に包まれる

ギュスターヴ・モローの描く世界は正に後者、静かな精神世界が広がります。

 

1826年4月6日 パリの教養ある中産階級の家に生まれ

幼いころから豊富な蔵書に囲まれていたモローは、古典に親しんで成長しました。

彼が親しんだ書物は現在もギュスターヴ・モロー美術館に残され、

その傷み具合から、確かにモローがそこに生きた証を感じとることができます。

 

ときは19世紀中ごろ、保守的な芸術アカデミーがフランス美術界をまだまだ支配していた時代

アカデミーに対抗するかたちで印象派が産まれ育っていきます。

そして、壮大な歴史画や宗教画はかつての栄光を失い、荒唐無稽な空想画へと堕ちて行きました。

 

そんな中モローが目指したのは、新しい歴史画、そして新しい宗教画。

いかなる芸術グループにも属そうとせず、孤高の人となったモローは

この偉大なるジャンルに、今までとは全く違う新たな生命を吹き込もうとしたのです。

 

今回取り上げる絵画は、L’Apparition(出現)。

取り上げられた題材を簡単に説明すると、

ユダヤのヘロデ王の妻となったヘロデヤの連れ子であるサロメがヘロデ王の前で踊り、

その褒美に何が欲しいかと聞かれ、洗礼者ヨハネの首を求めたとされる新約聖書の有名な一場面。

捕らえられた洗礼者ヨハネは首をはねられ、その首は銀のお盆に乗せられて

サロメの元へ届けられます。

 

そう、この様にヨハネの首は銀のお盆に乗せられて描かれるのがこの絵のお約束です。

あぁ、確かに、そんな絵を見た記憶があるという方多いと思います。

 

でも、この絵。どこにも銀のお盆は見当たりません。

それどころか宙に浮かぶヨハネの生首。鮮血滴る生々しい表現です。

斬首されたヨハネの首と対峙するのは、官能的で妖艶な姿のサロメ。

しかしその表情は凛とした強さをたたえ、存在感を放っています。

 

モローはこの絵画でいったい何を伝えようとしているのでしょうか。

伝統的には銀のお盆に乗せらているヨハネの首。それは物語の情景を忠実に表しています。

しかしモローが描いたサロメが見たのはヨハネの幻影であり、それはサロメの意識の中で起こること。

つまり、物語の主題に描かれる生身の人間の姿ではなく、人間の魂と魂の対峙という

目には見えない精神世界を表現しているのです。

これは、モロー独自の解釈による斬新な表現です。

 

また、後にモローが象徴主義と呼ばれるように

金色の輝きを放つヨハネの首は死を超越するものを象徴しています。

そしてサロメに見る永遠の女性像。

人が抗うことが出来ない生と死そして性、善と悪といった混沌とした世界を象徴的に描いているのです。

 

登場人物の衣装や、場面装飾にも注目して下さい。

この当時流行したオリエント趣味の影響を強く受けており、

古代インドを思わせる模様は、この絵に更なる神秘性を与えています。

 

モローの作品には熱狂的な愛好家たちが何人もつき、競うように彼の絵を購入しました。

その為、この有名な絵画L’Apparition(出現)は複数のバージョンが作られ、

パリでは、水彩画の奇跡的大作と言われるバージョンをオルセー美術館が *1

そして、画家のタッチが鮮明に残る油彩画をギュスターヴ・モロー美術館が

それぞれ所有しています。

オルセー美術館では、この他にオルフェウスを始めとするモローの有名作品をいくつか所有しています。

距離的に近いこの二つの美術館を1日で見学することも可能です。

*1  2016年8月現在、オルセー美術館の水彩画L’Apparition(出現)は非公開になっています。

 

Kate,

 

Musée Gustave Moreau (ギュスターヴ・モロー美術館)

14 Rue de la Rochefoucauld, 75009 Paris

01 48 74 38 50

メトロ : Trinité (12番緑色の線) から徒歩5分

開館時間 :

月・水・木 10h -12h45 // 14h – 17h15 (17h00から閉館準備が始まるので注意)

金・土・日 10h-17h15 (17h00から閉館準備が始まるので注意)

火曜日休館、1月1日・5月1日・12月25日休館

入館料 : 6€ (25歳までの方は4€)

Musée Gustave Moreau ホームページ (日・仏)