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パリには魅力的な美術館がいっぱい。

でも、もし何度目かのパリだったら美術館が企画するExposition(エクスポジション)と呼ばれる

期間限定の特別展にも足を運んでみたいものです。

各美術館の学芸員が競うように魅力的な展示を企画しているパリ。

今年も見逃せない企画展が目白押しです。

企画展の為だけにパリへ行くのは難しいけれど・・・でもせっかく行ったならやっぱり見てみたい。

そんな方のために、NAVERさんでまとめを作っていますので参考にして下さい。

今回はパリのピカソ美術館で始まったばかり、『ピカソとジャコメッティ展』へ行ってみました。

特別展のガイディングコースに参加したい方、是非御連絡下さい。

『ピカソとジャコメッティ』展は2017年2月5日までです。

 

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ピカソ1881年生まれ、ジャコメッティ1901年生まれ、二人の年の差20歳

ピカソ=スペイン出身の画家、ジャコメッティ=スイス出身の彫刻家

一見何の接点もなさそうな二人の芸術家ですが、実はこの二人リンクする部分が非常に多い

芸術家なんです。今回の企画はこの二人を徹底的に比較してみようという大変興味深いものでした。

 

まず、二人共に父親が芸術に関する仕事をしており産まれて間もない頃から絵筆を持っていたという

生い立ちは全く同じです。そして二人共に若い頃は保守的なアカデミー絵画の教育を受けました。

そして、どちらも19歳のときに故郷を離れパリへと活動の舞台を移しアカデミーとは決別、

どちらも近代を代表する芸術家となっていきました。

 

今回、ピカソ美術館とジャコメッティ財団との全面協力により実現した

初めてのピカソ、ジャコメッティ展。その展示物の多さは必見です。

 

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会場に入ると直ぐ、二人の代表的な彫刻作品が人々を迎え入れてくれます。

左がピカソ70代の作品妊婦像。右がジャコメッティ50代後半の作品女性の立像。

いずれも晩年の傑作です。

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さて、ではいよいよ観賞のスタートです。

時代順に追って行きたい方は順路を無視して3番のお部屋から鑑賞を始めて下さい。

まずは、二人の子供時代の作品からアカデミー教育を受けた青年期の自画像などが並びます。

下図、左はピカソが14歳のときに描いた裸足の少女。右はジャコメッティが同じく14歳のときに描いた風景画。

未来の巨匠はやはり幼少の頃から非凡なる才能を発揮していたようですね。

 

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そして、下図左はピカソ15歳のときに描いた肖像画。右はジャコメッティ15歳の作品、人形を持った少女です。

いずれの肖像画もプロ顔負け15歳の少年が描いたとは到底思えない仕上がりです。

 

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隣の部屋へ進むと、二人の彫刻作品が比較展示されています。

 

下図、左は1905年ピカソ24歳、まだパリに出て来て間もない頃の作品です。

前衛的な雰囲気もあるものの、まだまだ初期のアカデミー教育が残ります。

右は1925年ジャコメッティ同じく24歳、やはりパリに出て来て間もない頃の作品で、

この後の所謂ジャコメッティらしさはまだまだ影もない、そんな作品です。

 

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下図、左は1906年ピカソ25歳の作品です。次第に表現が平面的になりアカデミー教育の影は消えています。

対して、右は1926年ジャコメッティ25歳の作品でピカソ以上にその変化が著しく表れています。

 

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下図、左は1909年ピカソ28歳の作品です。いよいよ本格的にキュビズムへと傾倒して行く時代。

随分と幾何学的な表現が目立っているのがハッキリと分かると思います。

右は1927年ジャコメッティ26歳の作品です。

ピカソが始めたキュビズムの影響を強く受けていることがうかがえます。

 

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全く同じ道を丁度20年違いで歩み続けているかのような二人。

実際の活動においても勿論芸術家としての交流がありました。

パリに出て自身の芸術を模索し続けたピカソ、ジャコメッティにとっては同じ外国人として

憧れの存在でもあり、目指す方向性を切り開く先輩でもありました。

次の部屋からは、二人の作品に影響を与えたものが紹介されます。

ここでも不思議にリンクする二人のインスピレーションの源が比較展示されています。

 

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1907年、ピカソはパリで開かれていた原始アフリカ美術の展示を見て大きな衝撃を受けます。

特に、原始アフリカ人の作ったマスクの無駄のない表現、幾何学的な形の虜となったのです。

この日の衝撃からピカソはモンマルトルのアトリエに一人こもり、その後スキャンダルを巻き起こすこととなる

『アヴィニヨンの娘たち』の制作に取り掛かりました。

 

下図、左はピカソが26歳、1907年から1908年にかけて制作した三人の女性の絵画です。

まるでアフリカのお面を付けているかのような女性の顔、幾何学的な身体の表現、

当時の芸術家仲間から散々に酷評された、アヴィニヨンの娘たちと同様の技法を使っています。

しかし、これがピカソによる『キュビズム革命』の確かな一歩なのです。

右は1927年、ジャコメッティが26際のとき、上記彫刻作品でもそうであったようにキュビズムから多大な影響を

受けて作られた作品です。スプーン形をした女性と名付けられたこの作品もやはり

原始アフリカ美術からの影響が顕著に現れています。この作品はジャコメッティに26歳にして初めての

大きな成功を与えることとなりました。

 

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次の部屋では、生と死という人間にとって大きなテーマを取り上げています。

二人とも若いときに親しい友人の死という経験をしています。

パリピカソ美術館、青の時代を特集した記事に書いた通り、共に故郷のスペインから出て来て苦労をした

友人カサジェマスの死はピカソに大きな衝撃を与え、青の時代へと向かわせることとなりました。

 

下図、上段左は1901年ピカソが描いた死せるカサジェマス。

そして上段右は1963年にジャコメッティがスケッチした死せるジョルジュ・ブラックです。

ブラックはピカソにとってはキュビズムを共に立ち上げた同士でしたし、ジャコメッティにとっては

ピカソと並ぶ憧れの芸術家でした。更にこの二人の巨匠が生きた時代は数々の大戦に見舞われた

時代でもありました。下段の骸骨は左がピカソ1943年、右がジャコメッティ1947年の作品。

第二次世界大戦を前後して制作されたこれらの作品は、死というテーマを率直に表現しています。

それほどまでに、『世界大戦』と『死』というものが芸術家に与えた衝撃は大きかったのです。

 

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一階部分の観賞を終え、二階部分へ向かうスペースには二人の作品を比較するように二つの作品が

並びます。絵画は影という名前の付けられたピカソの作品で、晩年の1953年72歳の時に描かれた

ものです。長く伸びた黒い影はピカソ自身を表しています。

彫刻はジャコメッティの作。所謂ジャコメッティらしさが全面に表された長く伸びた細い線で表現された

男性は、1960年59歳のときの作品です。

 

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芸術家として志を共にした二人ですが、前述の世界大戦が二人の間に大きな溝を作ることとなります。

共にフランス人ではなかった二人。大戦中はフランスを離れることを強いられました。

戦後二人はフランスに戻りますが、ピカソはフランスの西南端コートダジュールのヴァロリスという町に

最後の妻ジャクリーヌを伴い移住します。その頃からジャクリーヌがピカソの秘書のようになり

友人がヴァロリスの家に遊びに来ても、ピカソは会わないと言っていますとジャクリーヌから言われ

追い返されるようになり、ピカソはどんどんと引きこもり人を遠ざけるようになっていきます。

更には、ジャコメッティがピカソに二人で一緒に個展を開かないかと誘ったのを

ピカソが断ったのが決定打となり二人の仲は疎遠になったと言われています。

ヴァロリスに引きこもりながらも絵画制作を続けていたピカソ。長い影を描きながらジャコメッティとの

思い出は頭をよぎったのでしょうか?

 

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さて、二階の展示室へと上がるとテーマはガラッと変わり、二人の芸術家が描いた

エロスとタナトスの世界観が展示されます。エロスはギリシャ神話において性愛を司る神、

タナトスは死そのものを神格化した神として同じくギリシャ神話に登場します。

下図、上は1931年のピカソの絵画、石の上に横たわる女性。

下は1933年ジャコメッティによるオブジェで首を切られた女性という恐ろしいタイトルが付いています。

どちらも、まるで昆虫のように描かれた女性の姿が非常に印象的な作品です。

 

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更に部屋を進むと、それぞれの芸術家のミューズたちの姿が現れます。

下図、左の絵画はピカソの愛人、写真家のド・ラ・マールを描いたもので1937年ピカソ56歳当時の作品です。

ド・ラ・マールは非常に気性の激しい女性で、ピカソの作品『泣く女』のモデルとしても有名です。

右の彫刻はジャコメッティが妻のアネットをモデルにして作成した彫刻で1954年53歳の作品です。

写真では少々分かり辛いのですが、この二作品を見比べると二人の芸術家の違いをハッキリと感じる

ことが出来ます。ピカソが自身の作品の中にモデルの感情や人間性までもを豊かに表現しているのに対し

ジャコメッティの作る彫刻はどれも、原始アフリカのお面を思わせる無表情なもので、ジャコメッティが

内面を表すことよりも形をより突き詰めて表現に結び付けていることが分かります。

 

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奥へと進んで、二人が写実主義的表現へと回帰していった時代に作られた作品が展示されます。

下図、上がピカソの作ったネコ、下がジャコメッティの作った犬です。動物の姿にもそれぞれの

芸術家らしさが表れていて、とっても興味深い作品です。

 

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最後の部屋には第二次世界大戦中からその後にかけて作られた作品が並びます。

前述の通り、戦争によって大きく溝が出来てしまった二人。ピカソがヴァロリスに引っ越した後

結局その関係が修復されることはありませんでした。

パリ市立近代美術館の記事でも書いた通り、戦争などの要因における社会の混乱は

芸術家のインスピレーションを滞らせ、古典へと回帰させてしまいます。

しかし、古典とは言ってもこの二人の芸術家です。

古典というよりは、それぞれの集大成とも呼べるような作品がズラリと並びます。

 

下図、左は1943年ピカソ62歳のときに描いた横たわる裸婦像。

右は1956年ジャコメッティ55歳の作品、ヴェニスの女性。

長きに渡りずっとリンクしていた二人の人生、戦後その関係を断ってそれぞれ別の道を歩んで辿り着いた、

そんな作品群に心打たれます。

 

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今回の展示、あまりに作品数が多くほんの一部しか書くことが出来ませんでした。

ピカソと言えばキュビズムの何だか分からない絵画

ジャコメッティと言えば細く伸びた身体の彫刻

こういった固定概念が濃く付きまとう二人の巨匠ですが、彼らが自身の作品に辿り着く道のりでは

数々の違った表現に挑戦していることが良く分かる、とても素敵な展覧会でした。

 

Kate,

 

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Musée Picasso (ピカソ美術館)

5 Rue de Thorigny, 75003 Paris

メトロ : St-Paul (1番・黄色の線) から徒歩10分

開館時間 :

火曜日-日曜日 9h30 – 18h

*開館日が祝日にあたるときも同じ時間で開いています。

*12月24日と12月31日も開館していますが、17hで閉館となります。

月曜日休館

入館料 : 12.50€ (18歳未満無料)

Musée Picasso ホームページ (仏・英)

 

***今回の特別展『ピカソとジャコメッティ』は2017年2月5日までです。***